引用
それにあのころの日本文学では、文字は泪で書いたり、血で書いたりするものと思はれてゐた。 今でもひょつとするとさうかもしれないけれど。でも、本当のことを言ふと、文学は言葉で作るものなんです。 「ゴシップ的日本語論」 丸谷才一 丸谷才一さん(83)…
10巻でとっ捕まって牢屋に入れられたアストリアスって人が95巻ぶりに鉄仮面を被って登場して言った台詞です。 ――誰ひとり俺の存在を思い出す者はなく、誰ひとり俺を助け出してくれようとするものもなかった。 あの悪魔は、俺を利用するだけして、俺を地下牢…
古いお話は古い文章で綴られるべきだと思う。 小さい「っ」を「つ」で代用して「ぼくもそう思つているよ」というような具合に。 「失礼だけど、あんたはあまりりこうじゃないね」 「ぼくもそう思つているよ」 「まだ、気が変つたと言つてもいいんだ」 「気は…
「――そうか。ワードナが、とうとう蘇ったか」 「あら、怖がるかと思っていたのに……意外ね」 「俺は、誰が相手だろうと怖がったりはしない」 「私たち六人でひとつの部隊と同等ですからね」 「わしらの存在は他国との戦さを避けるほどだ」 「強すぎる、という…
イエルサレム巡礼は、なにもキリスト教徒にかぎったわけではないこと、古代でも同じであった。また、スーベニールを 欲しがる気持では、ユダヤ教徒とて変りはない。ユダヤ教徒用には、十字架を例の七本の燭台に換えれば、立派にそれで 通用したのである。だ…
日本人は茶に対して尊敬の念をもって、常に「お茶」と敬称をつけて呼んでいる。盲点というか何というか。「お米」とか「お水」もそうですな。
筒井康隆は「あと味が悪い」などといった選評の繰り返しについに怒った。 「もういらない。ただ、私を酷評した選考委員には恨みがある。小説の中で殺す」 と物騒なことをいい、その通りに「大いなる助走」を書いた。 図書館で借りた「大いなる助走」の表紙裏…
一瞬、バーの中がしずまりかえった。 活動家らしい男たちは早口でしゃべっていた口をつぐみ、カウンターの酔っ払いはバーテンに話しかけるのをやめた。 ちょうど、指揮者が譜面台をかるくたたいて両手をあげたときのようだった。 とある美女の初登場シーン。…
もうこのころになると、建国前からの軍人や高官は、まだ生きているのが不都合だと言わんばかりに片っぱしから殺されてしまう。 博友徳将軍なんぞは何で殺されたのかわけがわからないので、歴史家たちも理由を探すのに難儀している。 突入した後一ヶ月くらい…
「崇拝者が暴君を詰り出すのは自分たちを殺しまくるということじゃない! そうじゃない! そんなことはなんでもない! それくらいはいくらも許してやる! が、突然、退屈な奴に変わっちまったこと、こいつばかりは許せない。 まじめな奴はまったくお義理にも…
実験とは未知の領域に略奪をしかけることであり、その略奪事件のあとに 初めてはっきりと理解されるものである。前衛とは文字通り最前線に進出することである。
「いまさら身の破滅が笑わせらあ。やい、あの黒門のなかは、 もうとっくに命をなげだした死人のあつまりだぞ。 死人に話をしにきたのがうぬの因果だ」 ぱっと、雨のなかを光芒がはしった。 「いずれ、話はとっくり、冥途できこう」 3行目の燃え具合は読んで…
恐ろしいものの形を ノートに描いてみなさい そこに描けないものが 君たちを殺すだろう
何故なら、これは何らかの意味でぼくら自身の姿であり、 人が自分自身の姿をその中に認め得る限り、文学作品は永久に新しいからである。 作品と私生活の両面から漱石という人間を分析した本。その徹底ぶりはむしろ解剖と言った方が近いかも。 内心まで踏み入…
「あの色は金よりもっと華麗じゃないか。ああいう色は、滅多にない赤い夕焼雲で見たことがあるだけだ。 あの金魚は金色というより銅色に近い。そして、銅は金よりも二十倍も綺麗だ。 なぜ銅が一番価値のある金属じゃないのだろう?」 「だれかが小切手を金に…
あらゆる物事の中で一番悲しいのは世界が個人のことなどおかまいなしに動いていることだ。 もし誰かが恋人と別れたら、世界は彼の為に動くのを止めるべきだ。
「クズ野郎ども! うちの首相は物理学博士だ! アインシュタインの理論だって説明できるんだぞ!」 微妙に頭悪い気がするけど、こういう理屈を無視した勢いのある文章は好き。 シュレーダー氏に代わって就任したアンゲラ・メルケル首相は国内支持率70%という…
なぜそんなと、理由を訊かれても答えようが無い。自分の仕事は、自分にはわかるのだ。 美術批評家は、筆さばきの具合ひとつから、あるいは光線のあてかたから、構図の取りかたから、 絵具の選択からさえ、これはルーベンスであるとか、レンブラントであると…
「どうだ。君の中で何かが壊れたろう。 俺は友だちが壊れやすいものを抱いて生きているのを見るに耐えない。 俺の親切は、ひたすらそれを壊すことだ」
「ほんの一瞬しか存在しないような立方体なんてものがあるだろうか?」 「ある時間続けて存在しないような立方体が、現実に存在するかと言っているんだよ」 「現実に存在する物体は、四つの次元に広がりをもっているんだ」