セリーヌ「夜の果てへの旅」より

「崇拝者が暴君を詰り出すのは自分たちを殺しまくるということじゃない! 
 そうじゃない! そんなことはなんでもない! それくらいはいくらも許してやる!
 が、突然、退屈な奴に変わっちまったこと、こいつばかりは許せない。
 まじめな奴はまったくお義理にも我慢ならん。流行病がやまるのは細菌が自分の毒素に飽きあきしたときだ。
 ロベスピエールは、いつも同じことばかり繰り返していたから、ギロチンにかけられたのだ。
 そしてナポレオンの場合は、二年以上にわたるレジオン・ドヌール勲章の濫発に敗れたのだ。
 座ったきりの全ヨーロッパの半分に対して冒険欲を満たしてやらねばならぬこと、そいつがこの気違い野郎の
 苦労の種だったのだ。人間業じゃない。そいつでくたばっちまったのだ」