『夏への扉』の一節

なぜそんなと、理由を訊かれても答えようが無い。自分の仕事は、自分にはわかるのだ。
美術批評家は、筆さばきの具合ひとつから、あるいは光線のあてかたから、構図の取りかたから、
絵具の選択からさえ、これはルーベンスであるとか、レンブラントであるといったような見わけがつく。
技術家の仕事もおなじことで、ある意味では芸術だ。一つの技術的な問題を解くにも、それぞれの流儀と方法がある。
技術家は、絵描きとおなじように、その流儀の選び方で、自分の仕事にはっきりと署名するのだ。