ダブルブリッド10巻はなぜハッピーエンドなのか



最初読んだ時は読了感があまりにすっきりしていて何事かと思いました。
数日して考えがまとまったので晒します。ネタバレを含むので隠します。


一言でいうと「我が生涯に一片の悔い無し」なんです。
起こっている事象は確かに凄惨の一言で主人公である片倉優樹の血縁者は死ぬわ友人たちは大怪我するわ兇人にフルボッコされて片目を失くして内臓潰れて
手に穴が空いて痛みを感じなくなるほど殴る蹴るされるわで凡百のラノベ主人公なら一生モノのトラウマになりかねない体験をしたわけです。
けど別にそれって優さんにとって大した事じゃあないんですよね。肉体的なダメージの度合いは1巻終盤とどっこいどっこいだし、友人たちの生存は確実だし、
そして何より優さん自身が何一つ未練を残してないんです。太一朗ときっちり話ができた。母親との別れを済ませた。未知の預け先を見つけた。
弟と家族の絆を確認できた。父親にも会って言葉を交わせた。仲間は全員死んでない。たった1冊でここまでいい思いができたラノベ主人公も
なかなかいないと思うんです。それでいて直接の死因が寿命という大往生ですからそりゃ延命も断りますよ。
それはこの巻で死んだ優さんの父親こと"主"と弟こと片倉晃もおんなじで前者はそもそも悔いなんて残す人じゃなくひたすら好き勝手に生きて好き勝手に死にに来て
最後に宿敵をフルボッコして娘とも話せたし後者は初登場時からずーっと復讐復讐言ってたけどいざ自分の寿命が近いと自覚したら
「やっぱり会った事の無い姉さんに会いたいです! ほら、姉さんってラストで太一朗と和解した後死ぬわけですし、その前に一つくらい良い思いをさせてあげても
 いいんじゃないかと思うんですよ。幸い僕は弟キャラですから心を通わせられないまま死んだ高橋幸児との対比にもなりますし。あ、もちろん復讐を諦めたわけじゃあ
 ないんですけどそもそも戦力差があんまりと言いますか『俺が本気で戦ったら東京が死ぬ』とか真顔で言う人に枝が伸びるだけの木刀一本で勝てるわけないじゃないですか。
 それにストイックな復讐鬼とか今のラノベ業界じゃあ流行りませんって。やっぱり時代は弟ですよ弟。というかツンデレとか素直クールとか新属性はいろいろ
 開発されてるんですけどそれって結局全部女の子の萌えキャラ用なんですよね。男の属性は基本的にショタかヘタレだけで俺様とか王子系というのはまた違う。何かこう
 『女主人公にくっつく献身的な弟』って男性層からの人気も狙えそうな気がするんですよ。感情移入って奴で。まぁ男主人公と姉キャラの立場を変更しただけなんですけど
 決して恋愛関係には発展しないピュアでハートフルな感情が肉体関係当たり前の環境で生きている昨今のラノベ読みの方々の目には眩しく映るのではないでしょうか。
 あ、キスくらいまでなら行ってもいいかもしれません。もちろんやましい気持ちなんて無いですよ!? 僕清純派ですから! エロに走るのは売れない人だけですよそこを
 わきまえて下さいよ本当に。確かに浅井ラボの言うエンターテイメントにはエロとバイオレンスが必須だっていう主張もわからないではないですけどダブルブリッド
 そういう事して喜ばれる作品じゃないと思うんです。読者はネタでタテスジタテスジ言ってるだけで実際やったら引きますよ絶対。需要が全くの皆無とは断言できませんが
 そこは大田真章にでもそれっぽい事を喋らせとけば勝手に妄想して楽しんでくれますよ。
 で、話を戻しますけどこの話のテーマは愛って作者が言ってますよね。現に太一朗は愛ゆえに姉さんを殺そうとして愛ゆえに童子斬りの支配から逃れたわけで、その後
 死のうとした太一朗に姉さんが手を差し伸べてお互い素直になってフラグも立って寿命さえあったら入籍してたかも、ってくらいのラブラブ描写を見せつけて最後に
 悲しい別れでめでたしめでたし。これは男女間の愛ですけど家族愛の方もあっても良いと思うんですよ。愛の形はさまざまですからね。相川虎司と安藤の関係も
 5巻あたりで僕が京都に行った時の鬼とヤンデレの関係も結局は男女の愛でしたし、テーマは愛とか言っておいてそれはちょっと片手落ちですよ。いや決して口移しで
 ビール飲ませたいわけじゃないですよ? 姉さんは酒を飲まないと死んじゃうって投稿作品時代からの設定じゃないですか。僕は作者の設定に従ったまでですから。
 それにあそこで飲ませないと姉さんがなかなか目覚めずその間に僕の寿命が来てシナリオ崩壊の危機でしたからね。片倉晃は姉さんに会いたいっていう伏線を最終巻の
 プロローグから必死に繰り返し張ってきた作者の努力を台無しにするわけにはいかないじゃないですか。もしかしたらそれでやる気失くしてさらに完成が遅れたかも
 しれませんし、言ってみれば僕が飲ませたから4年半で済んだんですよ。けど4巻P72の日下部ってマジ許せないですよね」
と、時間軸がどうなってるのか書いてる方にもわからなくなる長文メタ発言を始めたので鈴香さんが回収して千堂さん家に連行しました。
そんなわけで10巻で死んだ3人は全員がやりたい事やって大満足していてしかも死ぬのは避けられなかったから理不尽な死ではないんです。
物語的にも主人公が自分の目的を達成して満たされてたとえ結末が死でもそれを受け入れているのなら、そこに悲劇は発生しません。
客観的な事実はどうあれ、登場人物が幸福だと思えばハッピーエンドで不幸だと嘆けばバッドエンド。彼らはこの上なく前向きに生きて死んだと、ただそれだけの話です。