あなたの人生の物語



無茶なスケールのアイデアを駆使して現実を超えた現実を読者に叩きつける中編小説集。
作者はテッド・チャン氏。収録されてる8編から、特に気に入った3つを紹介。


『バビロンの塔』
何世紀もの間煉瓦を積み上げ、今まさに天に届こうとするバベルの塔を登る鉱夫達。
目的地はその頂上よりさらに上。 「あんたらかい? 空の丸天井へ穴を掘りにきたのは?」


塔は良いですよ。SaGaですよSaGa. にんげんのサガ。剣が喋ったりするのですよ。
塔の上で働く人に物資運ぶ人とかいるのですよ。食料とか建築資材を荷車使ってバケツリレー方式で。
それで塔があまりにデカいから、真ん中あたりで中継する人たちの家族は一生塔から出たことなくてそれを疑問に思わず暮らしてるわけですよ。
登っていくとだんだん世界の天井に近づいていくわけですよ。月が猛スピードで近くを横切ってたりするのですよ。
塔はもうほぼ完成してて、一番上でジャンプすれば空を構成する花崗岩に触れたりできるわけですよ。
ああもう何この想像力の枠外。無性に塔モノのRPGをプレイしたくなったのです。というかこの塔登りてえ。


『理解』
主人公はとある薬の作用で天才になりました。それを知った病院側は知能向上の実験として薬を追加投与します。
そしたら超天才になった主人公が薬を奪って逃げました。


とにかく主人公の天才描写が徹底してます。
自己の完全客体視とか肉体制御とか効率化した自作言語で多重思考とか。
ラノベキャラで例えるなら(峰島由宇+竜胆寺那智*1)+α. ぶっちゃけ、あの2人が組んでも勝てるかどうか微妙です。
後半はそんな主人公が能力をフル活用する頭脳バトルのインフレ展開。
読了後の感想は「お前らいい加減にしろ」


『地獄とは神の不在なり』
神の実在する世界。天使の降臨に巻き込まれ、妻を失った主人公は神を恨んでいる。
死ねば当然地獄行き。そんな彼が妻の待つ天国へ行く為に選んだ手段とは。


世界設定のアイデアが秀逸。降臨するだけで自然災害と奇跡を撒き散らす天使とか、
死者の魂が天国へ行くのを肉眼で確認できたりとか、ときどき地上に地獄が顕現して中の様子を見学できたりとか。
何より凄いのは、そんな無茶な世界なのに強固な現実感を持っているところ。
テーマ的に海の向こうでは凄い騒がれただろうなあ。

*1:麻生俊平氏の著作『VS -ヴァーサス-』に登場する世界第二位の頭脳を持つ人。こんな脚注なんて不要なくらいメジャーになって欲しかったです