泣き虫弱虫諸葛孔明



別冊文芸春秋酒見賢一氏が連載している作品。
タイトル通り中心は孔明だが、普通に三国志として読んでも差し支えは無い。
全体的なストーリーは三国志の原作に忠実だ。特に奇を衒ってはいない。


コーエーの「決戦2」のように劉備曹操が空を飛んで戦ったり孔明が剣の先から
炎を出して曹操軍の船を焼き払ったり荀或が女性になっていたりはしない。


むしろ原作を突き詰めた結果おかしな事になっている。
「何で孔明は南蛮で使った怪獣兵器や地雷を五丈原に投入しなかったのか」
こうした疑問から作者は孔明を分析していく。その分析ぶりが面白い。


勝ち目の無い北伐を繰り返し、歴史書に「この年、またもや孔明が侵入した」と書かれる。
孔明宅に向かう劉備の元に何故か次々と謎の人物が現れ、孔明を称える歌を聞かせる。
その志は宇宙より大きかったらしい。奥さんはロボットを作っていた。
軍師としては結構負けてるのにどういうわけか神格化されている。
徐庶が自分を劉備に推薦したと知って物凄く嫌そうな反応をした。


原作の記述や事実に基づいて作者が描き出した孔明は、世間でのイメージと比べて
とてもおかしな人になっている。
他の登場人物も原作に忠実に構築された結果、大なり小なりおかしくなった。


「決戦2」では原作を完膚なきまでに破壊していた。熱心な原作ファンの中には
怒る人もいたが、ここまでやってくれるなら別にいい、というのが大方の意見だった。


この本はどこまでも原作に忠実な結果、別な意味で原作を破壊している。
もう自分の中の孔明像は固まってしまった。他の登場人物もだ。
これから先、どのメディアで三国志を見ても頭に浮かぶのはこの人たちだろう。
面白いから別にいいんだけれど。