FFCC 小さな王様と約束の国と可哀想な魔王



無限の塔の攻略は概ね順調であった。
このゲームでは冒険者がボスを倒すたびに、褒美としてパラメーターUPのメダルを渡す事ができる。
そのためボスが無限湧きするこのダンジョンでは、冒険者の強さも理論上無限に強化することができる。
しかし理論はあくまで理論。日数が経つほど、高く登るほど塔はその難易度を増し、遠からず限界が訪れるのである。


その日、無限の塔の50階に挑戦していたパーティは2組。
うち片方は戦士・シーフ・白魔・黒魔の構成であった。4つの職業全てを組み込んだこの構成は探索能力・火力・防御力に継戦能力の全てを兼ね備えた
個人的に最良のパーティなのだが、王国に白魔が1人しかいなかったせいで当時は1組しか運用できなかったのである。


このゲーム、パーティに組み込まれた白魔はマジでヤバい。ケアルケアルラケアルガリジェネと溢れんばかりの回復魔法ラッシュで全員の生存率を大きく引き上げ、
誰一人欠けることなくボスとターン数の限界まで戦い抜く離れ業を可能とする。どんな屈強な面子もケアルがなければただの鉄砲玉にすぎない。
それだけではなく、力と器用さを上げれば手が空いた時にハンマーで敵をフルボッコにし、知性を上げればホーリーによる全体攻撃で数の暴力にも対応可能。
全てのパラメーターが強さに直結する唯一のジョブであり、いわばサマルトリアの王子のような万能職なのである。だから1人しか雇わなかった。


その王国唯一の白魔はユークであった。小さな王様がセルキーのついでに招いた異種族であり、主に魔法を得意とする。
具体的には種族アビリティで詠唱時間をキャンセルできる。初期の約束の国において「別にいなくても魔王倒せるよね」とまで言われていた白魔の地位を復権させ、
学生がいなくて涙目だった白魔法学院長から感謝状を授与されたその人である。
復権した時には冒険者枠が埋まっていたから結局白魔の人数は増えず学院長が再び涙目になったのだが、それは別の話だ。


さて白魔というのはシーフ以上に危険感知能力が高い。
他の職業と違って仲間が倒れて自分1人だけ残ったらフルボッコ確定なので、とにかく仲間が怪我したらすぐに癒さねばならないからだ。
もちろん自分が倒れてもならない。白魔が真っ先に倒れたら回復が途絶えて酷い目に遭った仲間によって
後日フルボッコ確定なので、とにかく自分が傷ついてもすぐに癒さねばならない。臆病者だけが良い白魔になれる。


そんな白魔だけは、約束の国の冒険者たちの中でただ一人その危険を感じ取っていた。皆に話そうかどうか、びくびくおどおど迷っていた。
「あの……」 「どうした?」 「いえ、何でもないです」って萌えキャラっぽい言動をしているうちに結局手遅れとなった。
ボスの間で彼らが見たものは、波動砲の一閃で塔の外までふっ飛ばされる先発隊の姿だった。


50階のボスはオメガであった。


ゆっくりしていってね!」
「だれがするかよおぉぉぉぉ!!!!」
4人の絶叫が重なる。こいつの脅威は全員FF5で経験済みだったので初手から手加減無用とばかりに
サンダガとかクリティカルとか暗黒剣とかホーリーとかいろいろ頑張ったけど駄目でした。白魔は後でめっちゃ怒られました。


涙目で帰還した冒険者たちの報告を聞いた小さな王様は3周目への移行を決意した。
「まあ、オメガだからな」
「オメガじゃあ仕方ないな」
周を跨いでも雇った冒険者とメダルで底上げした分のパラメーターは引き継がれる。次か、そのまた次の周まで強化すれば
オメガとガチ勝負しても勝てるだろう、というのが小さな王様の見通しだった。


ということで残ったボスを全て倒してメダルを稼いでから、平均レベル70強の冒険者たちが魔王の待つ攻略レベル37のラスダンに突入した。
すっかり遅くなったので退屈していた魔王は黒白キューピッドを10回ほど読み返して暇を潰していた。部屋に飛び込んできた冒険者たちを見た魔王は顔を明るくして
「この本凄く面白いんだけど」と言った瞬間に集中攻撃を食らってHPが0になり、EDはBボタンでスキップされてクリアデータがセーブされた。
小さな王様と約束の国と無限塔士Sa・Ga