ルクス・ペイン その2

  • 美術の先生の家に侵入する日である。症状からして彼は重度の感染者である疑いが強く、思考を読んで人間関係を辿ればサイレントの本体に行き着く可能性が高い。とても重要な手がかりなのである
    • そしたら当の美術の先生が2階からアスファルトに落ちて嫌な音をたてた。作戦開始から3秒後の出来事であった
    • 上を見るとガイキングみたいな名前の同僚が割れた窓から顔を出して「追い詰めたら窓から逃げちゃたwwwサーセンwwww」って子安武人ボイスで言った
    • 「おめえ本当に味方かよぉぉぉ!!!! 捜査妨害か! 捜査妨害だな!?」と詰め寄る西条。こないだから実戦経験積んでるので結構強気である。そうこうしているうちに美術の先生は怪我した身体を引きずって逃げていた
    • 「やっべサイレント逃がしちゃったよどこ行った!?」と狼狽する西条に「お前はあっちを回れ! 俺は反対側から探す! あと俺の名前はリュウ・イーです!」と的確な指示を飛ばす同僚。実はただのうっかりさんなのかもしれない
    • 色々あった末に美術の先生はサイレントを摘出され、そのまま救急車で病院に運ばれた。「どうして2階から飛び降りたりなんか……」って野次馬の生徒が心配そうに言っているのを聞いて西条はとてもいたたまれない気分になった
    • 摘出の際に読み取った記憶と、あと部屋の絵に残った残留思念からサイレントの本体を宿してそうな容疑者が浮かび上がった。本部のロリじゃない方の人は「これだけ手がかりあれば楽勝。ネット社会万歳」って言って検索にとりかかった
  • 結果が出るまで暇だったので西条は学園生活を満喫することにした。携帯に登録してあるメアドもずいぶん増えた。着信音も個別に設定した
    • ある日の昼休み、学校の端末室でパソコン好きの奴とニコ動を観ながらダベっていると近ごろ集団自殺が流行ってるよね、って話になった 
    • 「この間、近所のマンションであったじゃん」冒頭でリュウ・イーが突入してうやむやになってた件である。サイレント絡みの事件だし西条は思いっきり関係者なのだがプロなので動揺を見せずにそれでそれで? って感じに続きを促した
    • 「あの部屋からここのパソコンにメール届いてたんだよ。学内に関係者がいるねきっと」ちなみにメールはその場でバックアップとって消しました^^って続けたら西条が「おめえ、それ、早く、言えよなああああ」って言いたげな面になったのでパソコン好きの彼はちょっぴり怖いと思った
    • さっそく本部に連絡してその線で調べさせたら自殺サークルの名簿が出て来て下から四番目くらいにヤンデレって名前が書いてあった
    • それを読むなり犬を連れたロリから「姉のヤンデレが行方不明なんで探すの手伝って下さい!」って電話がかかってきた
    • あまりのスピード展開に狼狽しつつも午後の授業をスルーして残留意識を辿りつつ街中を探し回ると公園のブランコに長い髪の女生徒が一人。鮮やかな夕日に照らされながらもその姿はどこか儚げで、今にも消えてしまいそうだと西条は思った
    • 声をかけると女生徒は顔を上げ、うっすらと微笑んで「ヤンデレです! 感染してます! 今ここでサイレントの除去に失敗したら自殺しますからね!」ってウィンクしながら言った
    • 口調はアレだが起こっている事態は洒落にならない。西条はシグマを発動させてサイレントを倒した。今までのどのミッションよりも鮮やかな手際だった
    • すると一枚絵をバックにヤンデレの長い独白シーンが始まったので西条はこっそりAボタンを連打したけどスキップ機能は搭載されていなかったから黙って最後まで聞いていた
    • やがて夜になった。西条は助けられて良かったと報告書の人物ファイルに記入した。いつの間にかそれはずいぶん厚くなっていた
  • 美術の先生、その他の集団自殺者にサイレントを感染させた人物の居所が判明した。西条は突入したけどそこには誰もいなかったので残留思念を読んだ
    • 読んだ。読んだ。読んだ。西条は終始無言で読み続けた。そしたら隠れていたサイレントの本体が出てきた
    • 西条は本体用に準備していたREADY STEDY GOのMDを懐にしまい、ルクス・ペインの創り出す精神空間の中で誰にも届かない雄叫びをあげてサイレントに躍りかかった
    • サイレントの本体は倒れた。全ては思考の速さで行われた。他人からすれば一瞬以下の時間だった。だがその時間で全てを観た西条は顔を押さえてその場に崩れ落ち、子供のように泣きじゃくった
    • しばらくそれを聞いていた本部のロリじゃない方の人が「誰だよお前」って言ったので西条はむっくり起きあがって「西条アツキ17歳! 趣味は音楽鑑賞です^^」と応えた。サイレントとの戦いはまだまだ続く

その1