薔薇のマリア Ver3 君在りし日の夢はつかの間に:十文字青 角川スニーカー文庫



十文字青は良い一人称を書きます。
台詞よりも地の文の一人称の方が多く、1ページ丸々セリフが無いなんて事も珍しくない。
どのキャラも生活感たっぷりで何かしらのトラウマなり難題なりを抱えているのですが
全員に共通して「生きている」ないし「生きよう」という強い実感やバイタリティを感じます。
世界はドロドロで辛くて大変で自分自身はろくでなしで周りの人間も似たり寄ったりのクズ野郎ばかりだけど
それでも俺たちゃ生きているというか毎日生きてるなんていちいち意識してねーよバーカというか、そういうノリです。


この巻は番外編のひとつで、同じ街に生きるとあるギルドの面々を描いた短編集。
登場人物は20人以上。彼らが織りなす話の長さはまちまちで、十数ページの話もあれば余裕で100ページを超えている話もあります。
そして一読した後には、あれだけいた登場人物のほぼ全員がしっかり印象に残っているという。
それだけキャラ立てに成功しているというか、そもそもこの本自体キャラが好き勝手に息して動いて飲んで笑って仕事して馬鹿やって殺し合って筋トレして
匂い嗅いでエロい事考えてという風に、さんざん好き勝手に動いた結果完成したミステリーサークルのようなものではないかというか。ある意味キャラ小説なんですな。


最近のライトノベルでは珍しいタイプでこれがなかなか独特の味がするというか
少なくとも他人が真似るのは難しいだろうなと。何であれ、自分はそういう作品に惹かれます。
本編の知識無しでも単体で楽しめ、かつ本編と照らし合わせればより面白さが増す類の本ですので、
手元に読む物がなければ試しに手を出してみるのも良いのではないかと。