Self-Reference ENGINE:円城塔 早川書房



また妙な本を書く新人が現れた。


時間軸がバラバラになった世界。分断されたそれぞれのエリアで人々を導くのは
自然現象と合一し、演算力で過去を改変できるほどに進歩した巨大知性体群。
人類と巨大知性体、共通の目的は世界を元に戻すこと。デタラメな方向に伸びる全ての時間を
再びひとつにまとめること。その過程で繰り広げられる巨大知性体同士の演算戦。
戦いに負けたエリアは過去改変で存在自体が消滅する。世界の修復を成し遂げるのに必要な時間は予測不可能。
ただ有限時間のいつかとしかわからない。この戦いはどこまで続くのか。


と、いうのが骨子のように見せかけて、話がしょっちゅうあらん方向に飛んでいく。
生まれる前に未来方向から狙撃されたヒロイン、とある家に代々伝えられた謎の箱、
数学者26人が同時に発見した最終定理、コピーまでもが確実に盗まれる解読不能の文書、
無数に生えてくる生活用品と戦う村、床下から発掘された20人のフロイト、また出てくるヒロイン、
いきなり登場する真の敵、詩を作るコンピューター、自己破壊の理論、そしてまた語られゆくお話。


短編を継ぎ合わせて世界全体を語る形式なのに、物語を成立させるために必要な話をあえていくつも抜かしてる。
だからこの本は物語になっていないし、多分いつまで経っても終わらない。
例えるならばこの本は、壊れた世界を覗き見る監視カメラ。映像は次々に切り替わり、読者はそれに介入できない。
映画ではなく映像だから、あらかじめ用意されたストーリーはなく、物語が欲しいのなら見た人間が勝手に想像するしかない。


そして物語が無いのに小説としては成立しているからいっそう始末に終えない。投げ出さずに読めてしまう。
本当にまあ、よくもこんな本を書こうという発想が浮かんだもんだと。