橘さんと天野さんの境界線



橘さんは「仮面ライダー剣」に登場するライダーの1人。
第1話の冒頭でいきなり敵に苦戦してたり、ラストシーンで主人公見捨てて不気味に去って
「本当に裏切ったんですかー!?」とか言われたにも関わらず第3話で普通に帰ってきたり、
恐怖心が原因で体調崩してやられたり強敵にビビって通りすがりのゴミ収集車にしがみついて逃走したり、
捕まって下着一枚で緑色の水槽の中に浮いてたり洗脳されて敵に回ったりと初っ端から奇行を繰り返したせいで
すっかりネタキャラ扱いされがちで実際そうなのだけど、本当はとても強くてクールで心の優しい頼れる人なのです。


で、まあ上に挙げたのは初期の10話分くらいで以降も橘さんは全編に渡って奇行を繰り広げるのですけど、
橘さんが面白いのか、それともそれを演じてる天野さんが面白い人なのか、とんでもなく微妙に曖昧なのですよ。


例えば橘さんが失敗作のまずいパスタを物凄い勢いで平らげた挙句、他の人が残したのまで「(*0M0)これ食ってもいいかな?」と
嬉しそうに訊ねるシーンがあるのですが、他の役者さんの話とかでも「天野さんパスタ食うのめっちゃ早かった」とか
「インタビュー受けてる最中に飛び込んできて『おい大変だぁ! すごいぞ、あっちの部屋に寿司があった! ウニもあったぞ!』って叫んでた」とか言われてるわけです。


またとあるエピソードで「橘さんが子供達に優しい」ことが判明したと思いきゃ、天野さんがイベント会場で
「サンタさんを何歳まで信じてました?」と聞かれて「います!」と即答したりするわけです。子供の夢を守ってる。


ここにきてファンはにわかに混乱しだすわけです。いやこの人って、橘さんじゃね? と。
橘さんが面白いのは天野さんが演じてるからではないのか。自分達が面白いと思ってたのは天野さんの素ではないのか。
一旦そう考え出すと「天野さんが撮影現場の遊園地で四葉のクローバー探してたって」 「ああ、橘さんがやりそうだよね」
とかいう認識が即座に成り立ったりするわけです。ファンの中で橘さんと天野さんの境界は限りなく薄いと思われます。
橘さんというキャラクターの面白さはどこまでが脚本のおかげでどこまでが天野さんの演技の賜物なのか全く判らないんです。
少なくとも40何話だったか結構終盤の緊迫したシーンで置いてあった他人の牛乳をごく自然に飲んでたのは絶対天野さんのアドリブだったと信じてます。


というわけで橘朔也を語る際には天野浩成という役者さんの存在を欠かすわけにはいかないのです。
原作の脚本だけでは何をどうやっても「橘朔也」を作るのは無理なんです。不可能です。
こういう「キャラが役者に左右される」というのが実写ジャンルの面白さだと思います。作者だけでなく役者も創作に参加する。
橘さんはその顕著な例かと。ゲームや小説ではなかなか味わえないものを毎週視聴できた幸福な1年間でした。