FFCC 小さな王様と約束の国と無限塔士Sa・Ga



二周目も後半にさしかかって小さな王様も冒険者たちもいい加減ダレてきたある日のこと、
何の前触れもなく300Wiiポイントが消費されたかと思うと王国の周囲八箇所に高難易度のダンジョンが湧いてきた。
どれもクリアすれば次周の展開が大変楽になるという、ある種のボーナスダンジョンである。ちなみに平均攻略レベルはハードモードで約50。
この時点で攻略レベル37のラスダンで待ち構えていた魔王が涙目になったが、まだ更新のダウンロードは終了していない。


さらに消費された300Wiiポイントをチンクルが池に投げ入れると、みるみるうちに頂上が見えないほど高い高い塔が生えてきた。
「早く登るほど特典いっぱいです^^」
この一言をもって約束の国の緩やかなゲームシステムを根本から覆す開発者からの挑戦状、通称「無限の塔」の登場である。


「楽園の塔ktkr」
「スペクトラルタワーじゃねえの?」
冒険者たちがそんな感じで議論しながら「とにかく小さな王様に知らせよう」ってことでお城に向かおうとした矢先に、当の本人たちが向こうからやってきた。


ヒュー・ユルグはミサイル、マサムネ、ガラスのつるぎ、そして一発限りのかくばくだんを胸に抱いて頭にゾクのはちまきを巻いていた。
小さな王様は右手にいやしのつえ、左手にフレアのしょを装備してボディアーマーとサイコバリアを習得していた。
チャイムさんは小さな王様と同じ装備でエスパーギャルっぽい格好をしていた。
最後のパブロフはモンスターの肉をいろいろ食わされて爪攻撃とかケアルとかできるようになっていた。


魔界塔士ごっこ中の4人組は彼らに目もくれず「チェーンソーは邪道! チェーンソーは邪道!」って口々に叫びながら無限の塔へと走って行った。
そんな彼らを見送る冒険者たちの目には、驚くべきことにかすかな期待と尊敬の光が宿っていた。
実はあの4人、ああ見えて意外と強い。




ヒュー・ユルグは小さな王様の父王に仕えた騎士たちの唯一の生き残りであり、小さな王様を単身護衛して約束の国へと導いたのは彼の功績である。
その際に負った傷のせいで彼自身が魔王と戦うことは叶わなくなってしまったが、隠居をよしとせず毎日のように訓練所で後進の育成に余念が無い。
約束の国の冒険者たちは戦士もシーフも白魔も黒魔も、皆ヒュー・ユルグの元で戦闘アビリティを習う。全ての冒険者は彼を師と仰ぐ。


小さな王様はまだ幼く、剣も魔術も習い覚えてはいない。だが彼は単独で魔王を封印した勇敢なる王の息子であり、その姿を誰よりも間近で見て育った。
血によって継承された建築術。記憶を核として自らの王国を現実化するその魔術は、かつて王国に存在した全ての建築物をそこに住まう人間ごと召喚する
前人未到の秘儀であり、クリスタルの力が及ぶ領域内において彼の王は一国の全兵力を瞬時に展開しうる。


チャイムは約束の国の大臣兼小さな王の教育係である。学者肌だが攻撃魔法の類は一切使えず、唯一テレポのみを習得している。
「いざという時、テレポがあれば王様の元へ飛んで行けますから」それが彼女の主張である。関係のない話だが、戦場において移動力は絶大な利用価値を持つ。
護衛対象を安全域に撤退させるだけではない。迫りくる相手の攻撃を避ける事も、死角から刃を突きだす事も、彼女は王を守るためならやるだろう。


パブロフは先代国王がどこからか拾ってきた人語を解するペンギンである。彼にとって前王は己の命の恩人であり、またかけがえのない友であった。
魔王の襲撃によって王とクリスタルの加護を失い、一度は廃墟と化した約束の国が魔物たちの手に落ちなかった理由を知る者はいない。
彼はただ友との約束を守るために、誰もが去って行った国の唯一の民であり続けた。約束の国という言葉を聞くたびに、彼は自分のした事を誇らしく思うのだ。




五分後、塔の入口で係の人に「レギュレーション違反です」って言われて装備を取り上げられた4人組がしょんぼりしながら戻ってきた。
長々と続いた紹介文は何だったのかと反応に困る冒険者たちを見た小さな王様は「あ、君ら行っていいよ」って言った。
こうして無限の塔の攻略が始まった。それは正直とても楽しいものだったので、皆チャイムのどっきりビキニの事はすっかり忘れていた。
それどころではなかったのだ。本当に。