ソラにウサギがのぼるころ4:平坂読 MF文庫J



平 坂 読 は じ ま っ た な


何というか、うん。あんまり売れてないみたいでその理由はよっくわかるんよ。
戦闘シーンがいまいち盛り上がりに欠けるとか萌え狙いの萌えキャラ4人組があんまり萌えないとか
ところどころ、あえてベタに一見つまらなさそうに描写している箇所があるとか。
でもそれらはあくまで表面的、技巧的な問題で、これからいくらでも伸ばすなり補うなりできる部分。
平坂読の真骨頂は伝えたいテーマに基づいて文章を書こうという気持ちがあって
その書くべきテーマを現在進行形で捜し求めているということ。
だからできあがった作品にはその都度その時点で平坂読という作者が辿り着いた結論がそのまま出てくる。
それは大雑把に言うと日常の肯定。どんな場所だろうとどんな世界観でもどんな設定があろうと、
流れ行く時間を気の置けない友人たちと共に過ごすのは幸せなことでそれでいて仲間は多い方が楽しい、というのが
この4巻で主人公が気付いた答え。それまでは自分とその周囲数人だけが日常だと思っていたふしのある主人公が
学園祭というイベントでクラスメイトと交流していつの間にか全員の名前を覚えていることを自覚した瞬間、
守るべき大切な日常の範囲はどこまででも広げられることに気付く。同時に過去のトラウマも完全克服しているわけで
明らかに前シリーズの主人公より前向きな方向に向かっていて読者としてはその成長ぶりがとても嬉しい。


別にテーマなんて無くても面白い作品は数多くあるしそもそも作者の意図なんて読者が意識するものじゃないのだけれど、
この作者の追い求めるテーマには興味がある。表向きはラブコメあり特殊能力ありな現在学園モノでありながら、その本質は
強く日常に傾いている。能力嫌うとかそういうのはなくて、周りがそうだからそれも含めた日常が大事。
自分ただの高校生だし敵とか基本的にどうでもいいけど日常を壊そうとするなら相手になるぞとそういうスタンス。
その辺がラブコメしつつ敵を倒すだけの作品に慣れた自分にとって新鮮で、なおかつあんまりメジャーじゃないから応援したくなるというか、そんな感じ。