ソラにウサギがのぼるころ2



自分の中には作品の評価の基準として『代替不可能性』というのがある。
どんな物であれ、その人にしか作れない物はただそれだけで価値がある。


それは例えば藤倉冬麻のハイテンション一人称だったり、タマラセの地方都市的ギャグだったり、川上稔氏の独自世界だったり、
藤原祐さんのネタとして使えるまでに昇華された鬱だったり、薔薇のマリアの語りだったり、菊池たけし氏の世界の危機だったり、香辛料のホロだったり、
成田良悟さんの群像劇だったり、吉川良太郎氏のフランス描写だったり、マルタ・サギーの性格だったり、夕なぎの街の日常生活感だったり、
ダブルブリッドのグロ描写だったり、谷川流さんの長門だったり、され竜の鬱描写だったり、禁書目録の少年漫画的展開だったり、
林トモアキ氏の暴走気味なシリアス描写とギャグの融合だったり、クレバー矢野氏のシリアスリプレイだったり、古橋氏の万能文体だったり、
西尾氏のジョジョだったり、型月の新伝奇だったり、天羽沙夜さんの原作超えたゲームノベライズ作成技術だったりする。


で、平坂読さんのそれは何かというと、苦悩する主人公。
これに尽きる。『ホーンテッド!』、『ソラウサ』、ファントムに載ってた短編集に至るまで、描かれているのはほぼ例外なく
自分の境遇に悩み苦しんで、波風のない平穏な日常を生きたいと考えてる主人公と容赦なく押し寄せる非日常との対比。


その主人公のトラウマが徹底的に抉り出されるシーンが今回のターニングポイント。
具体的に言うとP139〜P158. ツンデレ腹黒人形メイドと主人公との口論シーン。
弱音を吐いて逃げようとする主人公を徹底的に見透かして蔑んで回り込んで一片の容赦もなくひたすら弾劾する。


しかしそれは主人公を誰よりも理解しているから出来る事であって、なぜ理解できるかといえば結局のところ同族嫌悪しているだけな訳で。
あそこまで辛辣なツンデレはなかなか見れるもんじゃない。最初からデレが透けて見えるキャラばかりな近年の生温いツンデレ業界に平坂読が投じた一石。
トラウマ持ちの主人公という独自要素に対応してトラウマ持ちのサドデレを持ってきたあの人物配置は見事。己の持ち味と萌え属性を非常に高いレベルでコラボレーションできてる。
自分はあの一連の描写に魂の燃える炎の茜色を見た。誰にも真似できない1人だけの本当が、確かにそこにあった。


まあぶっちゃけ、シズに萌えたって事ですが。
面白いものは人を雄弁にすると思うのです。