仮面ライダー剣における橘朔也の位置づけ



※以下の文章には重大かつ致命的なネタバレが頻出します。
  全話視聴済みの方、あるいは一生観ないと確信できる方のみ反転をどうぞ。

他のライダー3人と違い、仮面ライダーギャレンたる橘さんには明確な目的が無い。
元々ボードの研究員で、ライダーになったのもベルトに拒まれた桐生さんに「俺の代わりに戦ってくれ」と頼まれたから。
橘さんの戦う動機は人から受け継いだもの。自分が望んだ訳じゃない。だから普段の橘さんはあまり強くない。
伊坂を倒した時の橘さんが強かったのは、仇討ちという明確な目的があったから。
実際それが終わった後はベルト返してライダーを辞めようとしていた。
人のためでなく自分の体を治すために戦っていた時点で、橘さんは正義の味方ではなくなってしまった。
でもその後どうするべきかはわからなかった。とりあえずは剣崎達の近くにいようとした。
結局桐生さんにもう一度説得されて戦いに戻る訳だけど、自分自身の戦う動機は見つからないまま。
広瀬さんに騙されたのもそのせい。その時でも自分のしていることが正しいのかどうかわからくて、カード持ち出して剣崎達を助けたりする。


この時に言われてたとおり、橘さんは優しすぎる。だから悩む。迷い続ける。自分の道を貫けない。
ライダー辞めて恋人と普通の暮らしをしようとしたのに、いざ目の前で他人がアンデッドに襲われてたら変身してしまう。
人類滅亡に繋がるジョーカーを封印すべきと言いつつも、絶好のチャンスがあったのにできなかった。


それでも最後の最後で、橘さんは自分の目的を見つけ出した。
貫けるほどの正義はない。ライダーを辞めた事もあるし、ジョーカーも封印できなかった。
属していた組織は壊滅した。襲撃されたその場にいたのに、所長1人しか助けられなかった。
愛する者も失った。自分が巻き込んでしまったから。
自分のせいで何もかも失ってしまった。それでも、信じられる仲間だけは失いたくない。それが橘さんの辿り着いた答え。


「信じてるのか?」 「俺の友がな」
ギラファを封印すればジョーカーが残ることは明白だったけど、橘さんはリモートを使わなかった。
たぶんこの時の橘さんは、世界が滅ぶことを半ば確信していたと思う。
それでもジョーカーである始を封印すれば、二度と仲間である剣崎と睦月に顔向けできなくなる。
橘さんは、世界よりも仲間との絆を選んだ。


それでいいと思う。どんな形であれ、橘さんは自分なりの答えを見出して戦った。あの時の橘さんは最強だった。
世界を救うのは、正義の味方である剣崎の役目。奪われていたカードを解放した事で、バトンはしっかり渡された。
剣崎は剣崎で、正義の味方という立ち位置と始の友人という立場とのジレンマに悩んでいたのだけど、それはまた別の話。
戦闘後にベルトが破壊されたことで、桐生さんから受け継いだ役目は終わった。
これからの橘さんは、自分の人生を歩んでいくのだろう。
サウスハービー大学に戻るのかもしれない。森でクワガタムシと暮らすのかもしれない。
あるいは所長と協力して、剣崎を助ける方法を探すのかもしれない。
いずれにせよ、それは紛れも無く、橘さん自身の物語だ。


新しい強さで甦る思い。探した答えは変わり続けてる。生まれ変わるほど強くなれる。
テーマソングの"rebirth"はまさに橘さんのテーマだった。橘さんはずっと自分の答えを探していた。
結局信じられる仲間も失ってしまった橘さんは、本編終了後にまた迷い始めるのだと思う。
それでも橘さんは、一度は答えを見つけ出した。次の答えも、きっといつか見つけられるだろう。


「人々の平和を守りたい」 「人間として生きたい」 「仮面ライダーになりたい」
最初から答えを持っていてそれを実現した他の3人と違い、橘さんの1年間は、それを探し出すまでの物語だった。
自分はそんな橘さんを、最高に格好いい仮面ライダーだと思う。ネタも含めて大好きだ。